Vol.141 2023年9月号
2023年09月01日

日中は暑い日が続きますが、朝晩過ごしやすくなってきましたね。
皆さまお元気でお過ごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届け致します!
【河合由紀子のちょっとイイ話】
今月は先月に引き続き、プレジデントオンラインのノンフィクション作家野地秩嘉さんによる連載「トヨタがやる仕事、やらない仕事」(2023年1月23日)より、抜粋してお届けします。
『ある社員はこう教えてくれました。
「歴史観は大事です。トヨタに入るとまず(豊田)佐吉翁の逸話から始まるんですね。
佐吉さんのお母さんが夜なべして機(はた)を織っていた。それが大変そうだから、佐吉翁は自動織機を発明した。(豊田)喜一郎さんは関東大震災の時、電車やバスは止まったけれど、アメリカのトラックが縦横無尽に走っていた。その姿を見て、こんな大変な時に日本人が自分たちの手で作った車が1台もないのは悲しい、と。
それで、自動織機から自動車に移ったわけです。トヨタには産業報国という社是がありますが、産業によって国や国民に報いることをトヨタはちゃんとやっている。受け継がれているんです。きれいごとかもしれません。しかし、きれいごとを大切にするDNAがあるんです。やっぱりモノづくりの会社だからみんな真面目なんです。
研修でも、どなたかのために、何かのために、未来のために、環境のためにといったことをちゃんと教える会社です。ハウツーよりも、ビジネスパーソンとしての生き方を教えるんです。自分たちは何のために働いているんだ、と。
どなたかのためにやる。それで喜んでもらえたら、うれしいじゃないか。喜ばれる方の笑顔を思い浮かべながら働こうよみたいな会社なんですよ」
さて、生産調査部の尾上恭吾さんはトヨタ生産方式について、こう言います。
「TPSは原価低減、生産性向上が目的と説明されていました。しかし、これは本来の趣旨ではないんです。
社長の豊田(章男)が佐吉、喜一郎のことを思えば、『目的は誰かの仕事を楽にすることじゃないか』と初めて言いました。これまで生産現場のTPSであれば原価低減、生産性向上が目的と言えば、みんなすぐに理解できました。しかし、経理、広報、新車開発といった事務技術系の職場では原価低減、生産性向上を目的としたら、単に予算を減らせばいいと考える人が出てくるわけです。そこで、開発部門のTPS指導の際に『他の誰かの仕事を楽にする』をテーマにしたら、見事にハマりました。全社にトヨタ生産方式を広めようと思ったら、原価低減、生産性向上では通用しないんです」開発部門はカイゼン活動で、さっそく、「他の誰かのために」を形にしたそうです。
開発部門は長年、仕入れ先との間で、問題連絡書、通称、モンレンという書類のやりとりをしていました。
モンレンにはトヨタが出した仕様書に対する疑問、つまり、「このように書いてあるけれど、これはどういう意味ですか?」といったことが記してあります。そして近年、トヨタと仕入れ先の間でやりとりされるモンレンの数が圧倒的に増えてきたという問題が起こりました。ここをなんとかカイゼンしたい、と。調べてみると、問題点はモンレンの書き方でした。開発の人間は仕入れ先に与えるべき情報をいつの間にか絞ってしまっていたのです。そこで、新たにフォーマットを作り直しました。事前に仕入れ先に知らせておくべき情報の欄を大きくして、モンレンのなかに作ったのです。
そうしたら、両社の間を行き来するモンレンの数は劇的に減りました。こうして、仕入れ先という「他の誰か」の仕事は楽になったのです。同時に、トヨタの開発部もまたモンレンへの対応が減ったため、仕事が楽になりました。
世の中にひとりでやれる仕事はありません。どんな仕事にも関係者がいて、そのおかげで仕事が前に進むのです。ですから、相対する関係者の仕事が楽になれば、自分もまた楽になるのです。他人に尽くせば、自分にもちゃんと返ってくるのです。つまり、他人を楽にすると自分もまた楽になるわけですね。』(来月に続きます。)