Vol.156 2024年12月号
2024年12月02日
今年もお世話になりました。
皆さまどのような年をお過ごしになりましたでしょうか?
一年を振り返り、来年また素敵な年を迎えられますように!
【河合由紀子のちょっとイイ話】
今月も「致知」(2024年5月号)より93歳の現役料理人道場六三郎氏の
インタビューを抜粋してお届けします。
『二十代前半の時に、勤めていた神戸のホテルで板長から酷いいじめに遭ったことがあります。調理場の準備はどんなに急いでも二時間かかるのに、開店一時間前まで中に入れてもらえないとか、「遅いぞ、ボケ」と怒鳴られ、殴られたり蹴飛ばされたり、つくった料理をひっくり返される。辛くて心が折れそうな僕を支えてくれたのは両親の言葉でした。(中略)「何も分からないうちは我を出してはいけない。鴨居と障子がうまく組み合わさっているからスムーズに開閉できる。それが合わなくなれば、障子の枠を削る。上の鴨居を削ることはしない。鴨居とはお店のご主人で、六ちゃんは障子だ。だから修行とは我を削っていくことだよ」と。こういう言葉を自らに言い聞かせ、「ここが踏ん張りどころだ。いま辞めてしまったらこれまでの努力が無駄になってしまう」(中略)と心を鼓舞し、いじめや理不尽にへこたれず毎日朝六時から夜十一時まで一所懸命働きました。すると次第に板長の態度が変わり、僕のことを認めてくれるようになったんです。 この時の経験から学んだのは、「環境は心の影」ということです。自分の心のあり方が目の前の環境をつくっている。他人や環境を直接的に変えることは難しいけれども、自分の心や物事の捉え方を変えることで、相手や周りの環境も自ずと変わっていくんです。二十代の時にそのことを経験していたからこそ、独立前の逆境を乗り越えることができたと思います。(中略)
たくさんの料理人を見てきて、伸びていく人と途中で消えていなくなってしまう人の差は、料理の腕以上に日常のあり方に現れるというのが僕の実感です。脱いだ靴を揃える。ドアを開けたら閉める。自分から大きな声で挨拶をする、あるいはお膳を出す時に箸やお皿が傾いていないか確認する。日常の当たり前のことをいかに徹底できているかが問われるんです。
―老いて輝く人、老いて衰える人の差はどこにあるでしょうか?
それはやっぱり、「ありがとう」っていう感謝の気持ちをいつも持てる人、どんな時も笑顔を忘れない人、そして、死ぬまで打ち込む仕事があるってことじゃないでしょうか。
僕は七十五年料理を続けてきて、いまも料理が恋人。料理人になったことを本当に有難いと思っていますし、料理に生かされている人生だなと。料理のことしか考えていないですからね。「交わりは進化なり」と言いましたが、これとこれを組み合わせると、また別の味が生まれる。新しい発見がある。だから料理の道に終わりはない、永遠だなとつくづく感じます。「流水濁らず、忙人老いず」っていう言葉があるじゃないですか。水は流れているから清らかなのであって、溜まると濁ります。それと同じで、人間も動きが止まったら老いると思うんです。昭和の大横綱・双葉山が六十九連勝で記録が止まった時に言った「我、未だ木鶏たり得ず」の如く、生きている限り倦まず弛まずの心意気で、「昨日よりもきょう、きょうよりも明日」と高みを目指していく。何歳になっても人間を磨き続ける。これからもそういう人生を送りたいと心に期しています。』
いかがでしたでしょうか?環境を変えることはできなくても、自分を変えることはできます。しかし、それは簡単なことではありません。あたりまえのことを繰り返し、感謝と笑顔を忘れずに、新しいことにチャレンジし続け、豊かな人生を歩んでいきたいと思いました。