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経営サポート隊通信
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Vol.151 2024年7月号

2024年07月01日

皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けいたします!

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月も、先月に引き続き日経ビジネス電子版の記事からお届けします。(「なぜそれを知っている?」顧客を驚かせる会社キーエンス」2023.10.16西岡杏(日経ビジネス記者))

『「こんなに簡単なんですか? 初見で使えますね!」。「ガーナ」などのチョコレートを製造するロッテ浦和工場(さいたま市)。生産技術の担当者は2018年、キーエンス製の画像センサーの導入を決めた。工場に持ち込まれたデモ機を見るだけで、設定のシンプルさが分かったからだ。

それまでロッテの担当者が悩んでいたのは、検査工程の歩留まりの悪さ。チョコレートの「割れ」や「欠け」を判別する装置を用いていたが、精度が足りずに良品まではじいてしまう状況だった。

そこに声をかけたのが、毎月のように工場を来訪するキーエンスの営業担当者だった。ロッテの担当者は「相談を持ちかけると喜んで応じてくれ、翌週には具体的な提案に仕上げてくるようなスピード感がある」とその姿勢に好感を持った。そして、実際に持ち込んできた提案は、ロッテの想像を超えていた。

歩留まりの悪さという問題の解決に特化するのであれば、判別精度が高い装置に置き換えるのが近道だろう。ところがキーエンスの営業担当者が出してきたのは、高精度にするだけでなく、使いやすさを重視する提案だった。

多くの製造現場では、複雑な装置を作業者が使いこなせず、宝の持ち腐れになっている。「調整が難しい機械は、次第に敬遠されるようになる」。営業担当者はこうした実情をよく理解しているように見えた。

「一握りの専門家だけで考えるのではなく、生産ラインに関わる多くの人の知恵を結集して歩留まりを高めたい」。ロッテが抱えていたそんなニーズを先回りして具体化し、目の前に示したからこそ、キーエンスは自社商品の導入につなげられたわけだ。

先回りして本質を探り当てて解決すれば、大きな価値を提供できる。顧客も気づかない潜在需要こそ、キーエンスにとっては宝の山なのだ。それは、米アップルの創業者であるスティーブ・ジョブズ氏が「人は形にして見せてもらうまで自分は何が欲しいか分からない」と喝破したのと通じる。

電子部品の雄、村田製作所の中島規巨社長は取引先であるキーエンスの力に脱帽する。「あの会社の付加価値は、もう人。彼らのすごい提案力です。うちの設備を開発している者たちもコロッとやられるんです」

国内トップ3の時価総額、メーカーとして驚異の利益率、そして上場企業の中で屈指の高賃金。キーエンスを表す数字は、日本企業としては突出したものばかりだ。

なぜキーエンスはそれができるのか。その疑問に端的に答えたのが、「キーエンスは仕組みと、それをやり切る風土がすごい」というキーエンスOBの指摘だろう。属人的な意欲や能力に頼ることなく顧客に与える価値を最大化できるように仕組みを整備し、社員はその仕組みに合わせて正しい行動をやり切る。それがキーエンスの強さの根源であり、人材育成の要諦でもある。』

いかがでしたでしょうか?3ヶ月に渡りお届けしましたキーエンスの記事、一人一人はスーパーマンではないけれど、コミュニケーションを着実にして、システム化していくことでチームとして、可能性のある顧客を全て拾っていき、顧客の問題を解決することにより、さらに次の顧客につなげる。資金の多寡の問題ではなく、本気で顧客の問題解決に取り組むことが、いまのキーエンスの発展につながっていると実感した記事でした。


Vol.150 2024年6月号

2024年06月03日

蒸し暑い季節になってきましたが
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けいたします。

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月は、日経ビジネス電子版から『「なぜそれを知っている?」顧客を驚かせる会社キーエンス」(2023.10.16西岡杏(日経ビジネス記者))の続きをご紹介したいと思います。

『千葉県にある溶接加工会社の担当者も、キーエンスの営業担当者に驚かされた一人だ。ある日、突然キーエンスの営業担当者から「工場の設備が動かないそうですね」と連絡がきた。確かに設備が停止したばかりだったが、なぜそれを把握しているのか。実は、キーエンスに訪問を促したのは石川県小松市にあるロボットシステム開発会社、メカトロ・アソシエーツの酒井良明社長。キーエンスの装置を使ってこの溶接加工会社の設備を構築した企業だ。地方に拠点を構えるため、急な故障には対応できないこともある。そんな機会も逃さないのがキーエンスだ。「ちょっと見に行ってくれないかな」。千葉県のキーエンスの担当者は、酒井社長のなじみの金沢営業所の担当者から連絡を受けるやいなや、現場に急行した。代理店を挟むと調整などで数日かかることもあり、ここまでスムーズに進むのはまれだ。「キーエンスの担当者は客先に同行して営業もしてくれるし、メンテナンスもしてくれる。取引先ではあるけど、一緒に働く仲間のようなものだね」と酒井社長は笑みを浮かべる。もちろんキーエンス担当者は、故障を直した後にこう聞くことを忘れない。「他にお困りのことはありませんか?」

「○○さんは、最近どちらにいらっしゃるんですか」。ガラス大手AGCの「AGC横浜テクニカルセンター」で生産技術を担当する男性は、キーエンスの営業担当者が発する一言に時々ドキリとさせられる。何気なく人事異動や投資計画を聞き出そうとするその様子を、ライバルは嫉妬心も込めて「産業スパイのようだ」と表現する。聞き方こそ礼儀正しいが、裏側にある意図ははっきりしている。購買や投資判断に関わるキーパーソンの動向を把握することだ。キーパーソンの異動先の地域を担当するキーエンス社員とその情報を共有すれば、次の商品の売り込みが容易になる。その異動先が海外だとしても一緒だ。自身の営業成績につながらないとしても、会社全体の受注が増えればボーナスとして跳ね返ってくる。AGCレベルの大企業だと、キーエンスの各事業部の営業担当者が常に目を配り、電話やメールでまめに接触する。いつしか、横浜テクニカルセンターで生産技術を担当する数百人規模の社員のうち、約半数がキーエンスと何らかの接点を持つようになったという。AGC社内の情報にも深く通じているため、AGCの技術者は「キーエンスの社内にシステムがあって、共有されているのでは?」と不思議がる。その想像は当たっている。キーエンスでは、情報を可視化して共有するのが当たり前。もちろん顧客の了承が前提となるが、営業担当者がいつ誰と会い、何を話したかといった情報は、上司だけでなく、同じ顧客を抱える営業担当者とも共有する。だから顧客はキーエンスの情報の網から逃れられない。AGCの担当者は「キーエンスは営業担当者の商品知識もずぬけている。現場で競合の商品の使い方すら懇切丁寧に教えてくれるので、ついつい相談してしまう」と話す。顧客に「依存心」すら抱かせてしまうキーエンスは、じわりじわりと勢力を拡大している。』

社内の顧客情報を共有することを徹底し、共に課題を解決することにより、取引先という立場から一歩顧客に近い、いわば信頼できるパートナーという位置づけを獲得していく形は、取引先にとっていつのまにかなくてはならない存在となり、それが好業績につながっているといえます。

来月はキーエンスの想像を超える提案力の例をご紹介いたします。


Vol.149 2024年5月号

2024年05月01日

皆さんいかがおすごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けいたします!

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月は、少し古い記事ですが、日経ビジネス電子版から『「なぜそれを知っている?」顧客を驚かせる会社キーエンス」(2023.10.16西岡杏(日経ビジネス記者))をご紹介したいと思います。

『1974年の設立以来、主力にしてきたのはセンサーを中心とした業務用の電子機器。製造現場で異常を発見したり、生産性を高めたりするために使うものだ。工場の自動化(FA:ファクトリーオートメーション)の進展とともに事業領域を広げ、バーコードなどを読み取るハンディターミナルやロボットビジョン(ロボットと組み合わせて検査などに使うカメラシステム)などでも存在感を高めてきた。とはいえ、工場や倉庫、研究所に出入りする人でなければ、キーエンスの商品を目にする機会はほとんどないだろう。

商品はハイスペック一辺倒ではなく、意外なものを組み合わせる斬新なアイデアを特徴とするものも多い。例えば、自動化した生産設備で制御を担うプログラマブル・ロジック・コントローラー(PLC)。キーエンスは2019年、世界で初めてPLCに「ドライブレコーダー」機能を搭載した。クルマで事故が起こったときに状況を確認できるのと同様に、PLCを搭載する設備の稼働実績やカメラ映像などをくまなく記録し、後から確認できるようにした。

設備に起きた不慮のトラブルを詳細に分析するのに役立つ新機能は中小製造業の心を捉えた。このPLCは大ヒットとなり、今では三菱電機などの競合メーカーもPLCにドライブレコーダー機能を加えられるようにしている。

原理はそれほど難しくなくても、キーエンスが真っ先に商品アイデアを思いついた例は珍しくない。1万種類以上とも言われる商品を手掛けるキーエンスは、新商品の約7割が「世界初」あるいは「業界初」だと豪語する。

他にない機能を持つ商品が高く売れるのは当然だ。キーエンスの商品の粗利は約8割とされる。原価2000円の商品を1万円で売っている計算だ。

そんな商品を顧客の手元に届け、価値を感じてもらう原動力になっているのが、キーエンスの代名詞ともいえる「直接営業」だ。三菱電機やオムロンといったFA機器の競合メーカーが代理店を使った間接営業を主軸にするのとは対照的に、キーエンスは社員が営業担当として顧客企業を直接訪ね歩く。

三菱UFJモルガン・スタンレー証券の小宮知希シニアアナリストの試算によると、キーエンスの社員1人当たり売上高は8710万円(22年3月期)。代理店によるサポートがない分、不利になりそうなものだが、オムロンの工場向け制御機器事業の4482万円(同)に比べて約2倍という効率の高さだ。

19年秋にキーエンス製品を導入したクボタは、商談の展開スピードに驚いた。クボタは農機や建機のエンジン製造工程で使うロボットビジョンの導入を検討し、数社に見積もりを依頼した。代理店を挟むメーカーでは回答に1週間かかるところもあったが、キーエンスは即日回答。翌日には大阪市内のラボでの試用まで提案してきた。クボタ生産技術統括部の竹野陽山・第一課長は「圧倒的な速さだった」と舌を巻く。

兵庫県宝塚市で電子機器を生産するニッシンの役員は「ウェブサイトから商品カタログをダウンロードした1時間後に、突然電話がかかってきた」と打ち明ける。キーエンスに「待ち」の姿勢はない。顧客の興味の兆しが見えた途端にアプローチし、自らのペースに巻き込んでいく。』

一人当たりの売上がずば抜けて高く、社員の平均給与は2000万円超と言われるキーエンス。その効率の良さの秘密はどこにあるのでしょう。続きは来月号でお届けします。


Vol.148 2024年4月号

2024年04月01日

ようやく日差しが暖かくなってきました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けいたします!

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月は先月に引き続き、2024年2月10日日経新聞掲載の、伊藤忠商事会長岡藤正広氏のインタビュー記事『「謙虚は美徳」もう古い 伊藤忠会長CEOが喝』を取り上げたいと思います(一部編集)。

『「優秀な人材を海外企業に奪われないようにすることも重要だ。(世界水準に近づくように)賃上げを進めていく必要がある。我々は24年に全社平均で6%の賃上げを目指す。初任給は5万円アップを実現したい。我々が頑張れば、日本企業の底上げができるはずだ。22年までの10年間で、日本企業の人件費は16兆円増えた。一方で企業の収入は74兆円増え、株主配当は19兆円増えている。人材教育に投資をする余力は大きい。」

伊藤忠商事は残業が当たり前だったが、岡藤氏は社長就任後にトップダウンで朝型勤務に切り替えた。午後8時以降の勤務を原則禁止にして社員の意識を変えた。残業禁止まで行ったが、業績にマイナスの影響も出るのではとの懸念もあるが?

「日本の伝統的な働き方が、競争力を下げてきたと私は思う。一方、我々は少数精鋭で生産性を上げることに特化してきた。そのためには、朝型勤務が効果的だった。日本企業はフレックスタイムが主流で、早く来る時もあれば遅く来る時もある。午前10時に出社した人は新聞を読みコーヒーを飲んで10時半になり、昼ご飯に行く。そういう社員に限り、午後8時まで残業している。私は午前6時前に出社し、昼も食堂に行かず自室でファミリーマートの弁当を15分で食べ、午後3時ごろにいったん自宅に帰る。午後5時から会食に向かい、午後8時には帰宅する。とても効率が良い働き方だ。」

また、岡藤氏は働き方改革こそ少子化対策と説く。

「働き方改革は出生率向上にもつながっている。実は伊藤忠社員の21年度の出生率は1.97だ。この数値は日本の出生率1.30を大きく上回っている。働き方改革を始めた10年度は、出生率は0.94しかなかった。働き方を見直したことで生産性が上がり、プライベートの時間を確保できるようになった。日本企業は働き方改革について、楽をするために行う取り組みだと考えがちだ。生産性を高めるためだと徹底して行えば、結果的に社員も幸せになる。少子化は恐れるべからずだ。」

岡藤氏は、商社で万年4位だった伊藤忠を三菱商事や三井物産と争うまでに成長させた。時価総額が10兆円に上り、存在感から市場では「岡藤プレミアム」ともいわれる。岡藤氏の約14年に上るトップ在任期間で、伊藤忠商事の時価総額は10兆円と約8倍に増えた。日本が「失われた30年」と言われる時代に成長できたのは、モーレツなど旧来の習慣の断絶で活力を取り戻したことにあると岡藤氏は自己評価している。

朝型勤務や社員の出生率を指標にするなどの働き方改革は、大手商社でも群を抜く。働き方改革を業績向上にいかに結びつけるか、いまだ試行錯誤している企業は多い。「生産性を高めるためだと、徹底することが大事だ」と岡藤氏は説く。また、「謙虚は美徳」の文化も捨てるべき企業気質と断じる。不確実性の中で強さに裏打ちされた自信を示さないと、ビジネスで勝てないと憂う。相次ぐ賃上げなど日本企業はようやく巻き返しに動き出した。岡藤氏がいう強い日本企業を取り戻すために、古い習慣を断つ経営者の覚悟が必要だ。』


Vol.147 2024年3月号

2024年03月01日

まだまだ寒い日が続きますが
皆さま元気でおすごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けします!

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月は2024年2月10日日経新聞掲載の、伊藤忠商事会長岡藤正広氏のインタビュー記事『「謙虚は美徳」もう古い 伊藤忠会長CEOが喝』をご紹介します。

『バブル崩壊直後の1990年代から「失われた30年」が続いてきた日本で、企業が攻めの姿勢に変わり始めた。伊藤忠商事は残業禁止など大胆な働き方改革を断行したほか、リスク覚悟で巨額投資を決断し、利益水準で三菱商事や三井物産と争うまでに稼ぐ力を高めた。岡藤正広会長CEOはグローバルで勝ち抜くために、日本の伝統的な企業習慣を断つ必要性を説く。

スイスの国際経営開発研究所(IMD)がまとめた2023年の世界競争力ランキングで、日本は35位で過去最低になった。日本企業は攻めの姿勢が出てきたが、ランキングは低いままだ。

「私はこの調査を別の視点で見ている。政府や国際機関などが公表する客観的な統計データによる評価と、企業経営者へのアンケート評価を組み合わせている。国内総生産(GDP)などの統計データの評価は16位だが、経営者の主観で答えるアンケートで自国に対する評価が低く、合算すると35位になっている」

「これは経営者を含む日本人が非常に謙虚で、自己評価に厳しいということの表れである。違う視点で見るとそれだけ自信を失っている。世界の国で日本人のように控えめに謙虚に自分を評価する国がいくつあるか。自己肯定的な国は山ほどある。そういう国は自己主張しないと遅れていくので必死だ」

「過度に謙虚な姿勢は弱腰とみられる。相手は謙虚な人とは判断しないため、国際競争力では不利になる。謙虚さは強さと自信に裏打ちされたものでないといけない。相手から見下されると、自信がないと思われる」

――「謙虚は美徳」は日本企業の伝統的な習慣として根付き、上意下達の風土にもなっていた。なかなか変えられないのはなぜだろうか。

「謙虚さや律義さは大事だ。日本人は昔から製造業で納期をしっかり守り、信頼されている。ただ、モノやサービスを売るだけでは勝てない。100%完璧を求めすぎている」

「日本は島国で長く鎖国時代があった。攻められるリスクがないため、自分を大きく見せる必要はない。中国や韓国は攻められた歴史があり、常に強い姿勢で臨んでおり、迫力がある。ビジネスの交渉現場でも威圧感は大事だ。日本人は謙虚さを捨てる必要がある」

岡藤氏は日本がものづくり大国という考えは時代錯誤と指摘する

――謙虚さを捨てるだけで、日本は世界で勝てるだろうか。

「以前は世界が驚く日本製品が多かった。今は世界を席巻したソニーの『ウォークマン』のような商品は見当たらない。技術が衰えているわけではない。日本人は優秀な頭脳とお金を川上と川中に集中し過ぎているのが課題だ」

「日本企業の多くは素材や部品を作っている。最終製品に仕上げるのは米国であり、中国や韓国だ。日本企業の取り組みは、消費者が目に見える形で表に出ない。欧州の高級ホテルに行くと、昔はテレビはソニーやパナソニックだったが、韓国のサムスン電子やLG電子に変わった。海外に日本製品がないと、負けた気持ちになる」

「日本は『ものづくり大国』と言われてきたが、時代感覚がずれている。グーグルやメタなどテック企業のように、ITで稼ぐことが重要になる。ハードからソフトへ移行することが求められる」』

この後、朝型勤務、出生率、米大統領選について話が続きます。続きは来月に…


Vol.146 2024年2月号

2024年02月01日

2月になりました。
皆さまいかがお過ごしでしょうか?
今月も元気に経営サポート隊通信をお届けいたします!

 

【河合由紀子のちょっとイイ話】

今月は12月に取り上げました、日経ビジネス電子版の記事『アマゾンのジェフ・ベゾスがウォルマート創業者から盗んだアイデア』(2023.8.18)の続きをご紹介したいと思います。(先月にご紹介する予定でしたが、年始のご挨拶の記事を掲載いたしましたので、今月にご紹介させていただきます。)

『自前で物流網を持つことへのこだわりもウォルマートが手本といえます。ウォルトンはウォルマートの物流の優位性についてこの本でこう述べています。「率直にいって、わが社の物流システムは、小売業界はもちろん、他の多くの業界からも羨望の目で見られている。……わが社の店舗が取り扱う商品は八万品目を超えるが、これら商品の85%を自社の物流センターから直接補充している。……その結果、各店がコンピュータで商品を発注してから実際に納品されるまでにかかる日数は、他社が一般的に5日以上であるのに対し、わが社では平均わずか2日である」ウォルマートは自前の物流システムを構築することで、時間だけでなくコストも削減しました。物流コストを低減することで、「仮に同じ商品を同じ売価で売ったとすれば、わが社は他社より1.5~2%も余分に利益が出る計算になる」とウォルトンは述べています。アマゾンも自前の物流センターを持つことで、配送スピードでライバルのネット小売りに対して圧倒的な優位性を持つようになりました。創業期に資金が足りなかった多くのネット小売りが物流をアウトソーシングしたのとは対照的ですが、配送に時間がかかる米国では際立った競争力になりました。しかもアマゾンはロボットなども活用して低コストで効率的な物流システムを実現しており、低価格で商品を売っても利益が得られる体制を構築しました。

このほかにも経営陣が自由に経営しやすいように労働組合をなるべく作らせないようにする一方で、従業員には自社株を付与して(ウォルマートでは株式購入優先権)会社と一体感を持たせ、株価の上昇で報いる仕組みを導入するなど、両社の類似点は枚挙にいとまがありません。べゾスはウォルトンの経営手法に心酔していました。べゾスから私のウォルマート商法をもらった人物によると、「優れたアイデアを競争相手から拝借する」というくだりに下線が引いてあったそうです。ウォルマートの経営ノウハウを取り入れるために、べゾスは同社の経営人材も引き抜きました。それがリック・ダルゼルです。ウォルマートのIT部門の幹部でしたが、1997年に創業期のアマゾンに入社し、2007年11月までアマゾンのCIO(最高情報責任者)や上級副社長を務めました。アマゾンの成長を支えるテクノロジーやソフトウエア、サービスの基盤を構築するという重要な役割を担いました。

ウォルトンの著書からべゾスが学べることはほかにもありました。巨大企業になったときに社会から受ける猛烈な反発とどう向き合うかです。ウォルマートの成長と歩調を合わせて、多くの小規模店が廃業するようになります。ウォルマートは「よきアメリカの田舎町を破壊する敵だ」と非難され、目の敵にされるようになりました。「完全に成功した大企業になると、突然敵役にされるのだ。というのも、どうやら誰もが、トップに立つものを打ち落とすことが好きらしいからである」。このようにウォルトンは述べています。アマゾンも急成長を続けて大成功を収めるようになると、小売業の“破壊者”と見なされるようになりました。アマゾンの収益拡大などの影響を受けて業績が悪化しそうな米国の小売関連の上場企業54社以上を対象にした「デス・バイ・アマゾン(アマゾン恐怖銘柄指数)」も生まれたほどです。アマゾンの物流拠点における労働環境が批判され、労働組合を結成しようとする一部の従業員の動きも注目を浴びるようになりました。かつてのウォルマートと同じように、強大になったアマゾンも社会に受け入れられ、愛される企業になることが求められています。

ウォルトンはこの本の最後でアマゾンの登場を暗示するような言葉を述べていました。「ウォルマートのようなサクセス・ストーリーは、今の時代でも可能なのか? もちろん可能だ、というのが私の答えだ。今この瞬間にも、素晴らしい発想をもった誰か、何万人もの人々が、成功への道に向かって歩み始めている。何としてもそれを達成したいという情熱さえあれば、成功は何度でも起こり得る。必要なのは経営について絶えず学び、絶えず疑問を抱く姿勢とそれを実行する意欲だけである」 経営について絶えず学び、疑問を抱く姿勢を持ち続ける一方で、強烈な実行力も持ち合わせたべゾスは、ウォルマートをはるかに凌駕する株式時価総額を誇る巨大企業にアマゾンを育てました。』


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